WCFO セミナー レポート(2)
WCFO 5th International Conference in Colorado

(1)へ (3)へ
International Whirl Competition 編


 ちょっと一息・・

 前日までがWCFO主催のコンペティションなら、今日はホストクラブ主催のコンペティションで、
これにも約40ペアーのエントリがあり、見学するだけでも相当の体力が必要だ。
もともと強くない私の体は、旅の疲れや気疲れで重たく感じる。
事前にチェックしたペアーの出番の合間を利用して、部屋で少しばかり英気を養う。

 お昼は同行者の希望で近くを散策し、外食店を探す事にした。
会場のホテルから左程遠くない公園の入り口では、フライデーフェスティバルが
行われていて、臨設されたステージのスピーカーから、賑やかな生バンドの演奏が
流れてくる。
誘われるように近づくと出店が並び、近くのレストランの内外では、
食事をしながら音楽を楽しむ人があふれている。

 一軒の店を選びメニューを見る。メキシコ料理の店だが、
タコス以外はさっぱり分からない。
若い頃行ってたメキシコ料理店の定番「カルフェデ・フェデリコ」の
文字を目で追うが無い。
雰囲気で入っただけで、メキシコ料理なんて何も知らない。
みんなも何を注文してよいのか分からず、まわりを見回すばかり。
近くのテーブルで、おいしそうな料理を食べている出席者を見つけた。
全員一致でそれに決め、メニューを持った佐藤さんがどの料理かを確認に行く。
ホテルのメニューもそうだったが、同じ料理も盛り合わせの違いがあり、
注文すると、必ず盛り合わせを聞かれてしまう。
「もっとシンプルなメニューにしろ、このヤロー!」

 とにかく行動を起こそうとすると一苦労、シャイな私はますますシャイになる。
言葉の通じない犬の気持ちが少しだけ理解できる。
チキンとビーフの2種類あったが
料理の名前は覚えていない。

「おいしかったかって?・・」
オランダ以来「食べれただけでも有り難い」と思う事にしている。
ひとつ言える事、ボリュームだけはいつも満点、お子様ランチにしたいくらい。

 食事の後「今のうちに少しばかりお土産を調達したい」というみんなの希望で、市内を散策することにした。
デンバー市内からかなり離れたところに位置するグリーリーは、町自体は結構大きな町のようだが、
少なくとも我々のホテル周辺にお店らしきものは全くない。
それらしき看板を遠めに見つけては移動するが、車に関するショップばかりが延々と続く。
道行く人に尋ねても、車がなければ無理のようだ。
連日39度を記録しているグリーリーの町を、疲れるほど歩いたが不思議と汗はかかない。
時折通る街路樹の下では、冷気ともいえるさわやかな風を感じる。
「デンバーに行くなら、リップクリームを用意していたほうが良いよ」と、友人のアメリカ人に言われていたが、
じめじめした日本の暑さとはえらい違い、非常に過ごしやすい。
滞在中、39度の外気温にもかかわらず、シャワーを浴びたあと以外は、
部屋の冷房を切って過ごした事でもお分かりいただけるだろう。




 3日目
Rocky Mountain High Competition
Whirl Titling Competition


 この二つのコンペティションは、初心者クラスから設定されているので、いろんなペアーが登場するが、
全くといって良い位に動かない犬がいる。
そんな時、どのハンドラーにも不安や不満の表情は見えない。
座り込んで首筋を掻き出した犬に、「何やってんのよ、あなた・・、いいわよ、私一人で踊るから・・」
観客に向かって肩をすぼめ、両手を広げながら、
「やってしまちゃった」といわんばかりにアピールしながら演技を続ける。どっと笑いが起きる。
「あらあら・・ま〜だ、やってんの。いい加減になさいよ。カモーン、ベイビー」

 どうやら、得意のトリックらしく、立ち直ったかのように動き始める。
観客からまたまた笑いと同時に大きな拍手が送られる。
「そうなのよ、うちの子・・やるときゃやるのよ。さあー次も得意でしょ、サイドステップ」
「ほらね、結構やるでしょ、うちの子」
時折観客に目をやりながら、そう言ってるかのような笑顔の演技は憎めない。
惜しみない爆笑?と拍手が休むことなく続く。

 順調に進みかけたかのように見えた次の瞬間、またもや座り込む。
大きな体を2つに折り、お尻を振りながら、両手を差し出し「カモーン・カモーン」。
山本リンダ顔負け(古い?)の妖艶な動き。
計算されたかのような観客との、掛け合い漫才風ルーティン?は、2分で終わらせるにはもったいない位
大うけの爆笑ルーティンだった。
終わったあとも観客からの拍手は止む事無く続き、まるでカーテンコールでも要求しているかのようだった。

 このペアーは午後からも出場するので、当然のようにみんなの注目ルーティン?として、目録にチェックが入る。
ところが午後からのこのペアーは、持ち味を充分に発揮した演技で、まるで別人のようなすばらしさ。
期待を裏切られた?観客からは、午前中の余韻を楽しむかのような、妙な笑いと同時に大きな拍手が送られた。

 午後のホイールコンペティションには、インターメディエイトクラス以上のペアーが登場するので楽しみだ。
プロスターで優勝したペアーも同じルーティンで、再チャレンジしてくるが、
そうでない力のあるペアーもたくさん見れるはずだ。
椅子に座っての観戦だが、痛めている腰には相当の負担がかかる。
明日からのセミナーの為に腰をかばいながら、事前チェックしていたペアーを中心に観戦するが、
結局、このコンペでも、プロスターチャンピオンが昨日と変わらない演技を披露して優勝し、
最高技術点賞、最高芸術点賞の3冠に輝いた。

TVクルーは3日間に渡って取材をしていた
爆笑ルーティンではありません、念のため


 バーベキューパーティと表彰式

 夜はホテルの中庭でのバーベキューパーティ。
・ ・と言っても、日本のようなバーベキュースタイルではなく、料理がバイキングのように並んでいて
最後のバーベキューコーナーで、ビーフのブロック(どの部位かは分からない)を
ホテルのコックがそぎ落としてくれるというスタイル。
食べず嫌いの多い私は、サラダのような無難な食べ物を皿に盛り付けただけで、すでに腹いっぱいになった気持ち。
お目当てのお肉のコーナーに来た時には「1枚だけ、すこし・・」というジェスチャーをしていた。

 出席者は思い思いにテーブルに着き、談笑しながら親交を深める。
我々4名も通訳の坂倉さんの手を借りて少しばかりの国際交流。
しばし談笑をしていると、今回プロスターのジャッジとして、カナダから参加していたリンダが笑顔で私に近づいてきた。
到着した日、会長の部屋ですでに挨拶は交わしていたのだが、通訳がいなかった為深い話しはしていなかった。
彼女は日本のトレーニングスタイルに非常に関心があるらしく、ワークショップに参加するのが楽しみだとの事で、
その事が、今回ジャッジを引き受けた大きな理由のひとつでもあると言ってくれた。
とにかく期待を裏切らない仕事をしなきゃ・・。

 お腹が充分に満たされた頃合を見計らって、コンペティションの成績発表が行われた。
各部門賞の発表やスポンサー提供の品々が副賞として与えられる。
実に様々な賞が設けられていて、成績の優劣を超えて等しく賞が与えられるように工夫されている。
日本人には理解しにくい賞にも涙ぐんで喜ぶ受賞者がいる。
競技会にありがちなギスギスした物を感じない。ここでも達成感の違い、価値観の違いを多いに感じた。
我々が副賞にと、日本から持参した着物(古着屋で購入したトッパ)は、プロスター優勝者に渡され、
出席者の羨望の声と共に大変喜ばれた。

バーベキューのほかに、庭の片隅には
ドリンクコーナーやバイキングコーナーが、
前会長や会長のアンナ、ジュニアチャンピオン、
トッパを着てご満悦のプロスターチャンピオン等に囲まれて

通訳を交え、カナダからの出席者と交流・



ワークショップ編 (1)
(ワークショップー1日目)
ハビチュエーション・トレーニング


 
今回のワークショップには、私の他に4名の講師が招聘されていた。
FSの女王・K9ドレッサージュの提案者「サンドラ・デービス」、英国のトップフリースタイラー「リンダ・トプリス」、
カナダのトップフリースタイラーで振付師の「キャサンドラ・ハートマン」、
今アメリカで人気上昇中という「ダイアン・コワルスキー」、WCFOオランダ支部長の「ヴィース・ター・ベック」。

 経験に応じて分けた4つの受講グループが、1時間半のローテで5つのブースを
移動しながら受講するというスタイルだ。
1日限りの講師もいるが、私は2日間の担当。
経験の違いを考慮すると、多少の内容変更はあっても、同じ様な事を1日4回も繰り返ししゃべらなければいけない事になる。
幸いな事に私のセクションは、初心者から上級者へと移動して来る。

 今回の内容は、私が長年大事にして来た事をプログラム化した「ハビチュエーション・トレーニング」だ。
馬や海洋獣を含むあらゆる動物には、目的のトレーニングを行う以前の「ハズバンダリー・トレーニング」というのがある。
簡単に言えば、今から行うトレーニングに対し、協力的な個体にしておこうというトレーニングだ。
犬のトレーニングを馬から学んだ若い頃には、あまり意識しないままに行っていたこのトレーニングを
最近になって忘れかけていた。
犬の場合、トレーニング以前のトレーニング等と面倒な手続きを取らずとも、
出来ない事があれば強制的にでも教える事が出来る。
しかもその痕跡を全くといって良いほど残す事もなく。
ただし、これは熟練されたトレーナーによってのみ言える事で、一般の愛犬家には危険なトレーニング法でもある。


 
ハビチュエーション・トレーニングは、今までも必要に応じ生徒さん達に指導はしていたが、
プログラムとしての運用はしていなかった。

ここ数年必要性は感じていたものの、体の不調と若干の欝から抜け出した何年か前に,プログラム化したものだ。
少しばかり元気になって久しぶりに
1頭の犬でその効果を試してみたが、自分でも驚くほど効果が見える。
生徒さんの一部にも取入れて頂くと、効果はすぐに現れてきた。
今まで難易度が高いと思われていたトリックなどが、意外とスムーズに手にはいる。
しかもこのトレーニングは、何よりも穏やかな気持ちで行う事ができ魅力的だ。

 聞いてる時は「なるほど、良い話を聞いた」と言って帰ってくれるのだが、
退屈なこの作業を、どれだけの人が真面目に取り組み、理解してくれるか心配だ。
現に私の生徒でさえ、目先の形にとらわれて、この事をおろそかにする方が多いのだから。

オランダでは、使えなかったプロジェクターを
フル稼働、少しだけ英訳もして・・。


セミナーやコンペは基本的に撮影禁止。そっと撮ったり
休憩時間を利用して雰囲気だけを撮影したり・・。
通訳を介したセミナーは、倍以上の時間を要してしまう。


通訳の坂倉さん、休憩中も受講者の質問を丁寧に
説明してくれたりと大活躍。素晴らしいパートナーだった。
 通訳

 この辺で通訳について話しておこう。

 今回の通訳探しには、WCFOも相当苦労したらしく、決まったのは出発直前の1週間を切ってからの事だった。
日本語で話しても、なかなか自分の意図を伝えるのが難しいのに、専門的な事となると
日常会話くらいの言語能力では不安になる。
オランダでは、言語能力もある日本人ベテラントレーナーに出会ったが、二匹目のドジョウはそういるものではない。
セミナーの成功は通訳をして頂く方の能力が大きく作用する。
今回はそんなことを踏まえ「せめて日本語のニュアンスを伝えられる日本人通訳」と言う事でお願いしていた。
ところが、直前になってもそれらしき通訳が見つからないとの情報が入り、ある方がデンバー大学内にある
日本人教師協会に問い合わせてみたらと、進言してくれたらしい。

 出発4,5日前に、ようやく“坂倉さん”という日本人女性が通訳を担当して下さる事になった。
早速彼女から「WCFOから頂いたハンドアウトを拝見いたしましたが、島田様のセミナーを成功させるためには、
より詳しいセミナーの内容が欲しい」というメールが入った。
専門的な用語や解釈などを、短期間ではあるが自分なりに勉強しておきたいとの事だ。
もちろんより詳しい内容と共に 「出来るだけ専門用語の使用は避けますが、理解できない箇所があれば、
話を途中で遮ってでも質問をして頂いてかまいません」とメールを送った。

 ワークショップ前日にお会いした彼女は、在米35年という物静かな日本人女性。
普段はデンバーの大学で、講師をしているようだ。
通訳を引き受けたいきさつは聞かなかったが、前述のいきさつから察するに、現地の日本人教師協会からの派遣ではないかと思う。
私からのハンドアウトを受け取ってから、図書館で専門書と複数のトレーニングビデオを借りて勉強をしてきたとの事。
「どれだけお役に立つかは分かりませんが、セミナーが成功するように精一杯がんばります」と心強い挨拶。

 セミナーが始まって驚いた事に、彼女の通訳ぶりは素晴らしく(受講者を見ていれば想像がつく・・)、
3クール目位になると、私の最も伝えたい事の概要と時間の経過まで完全に把握して、そっと知らせてくれる。
「先生、お時間があと○○分位しかありません。今回は○○のお話はしなくてよろしいのでしょうか?
そろそろ入らないと間に合いませんが・・」とアシストしてくれる。
ただでさえ物忘れの激しい私は、同じ事を何度も喋っていると、つい話した気になってしまう事がある。
折角プロジェクターに収めた資料も出し忘れる事がある。
そんな時絶妙にアシストしてくれる。
その他にも、しつけ教室やセミナー等ではよくある話だが、同じような質問が何度もきてイライラする事がある。
そんな時は、私を介さずに即座に答えてくれているようだ。
これもまた、受講者の納得度を見れば的確に答えてくれているのが分かる。

 休憩時間中に・・
「セミナー中、同じような質問がありましたので、先生を介さずに○○と答えてしまいました、良ろしかったでしょうか。
本来通訳として絶対にしてはいけない事なのですが、先生が出来るだけ沢山の事を伝えて帰れるよう
時間節約の為にしてしまいました、お許しください」とお詫びを入れてきた。
わずかな時間とはいえ、同じような質問が重なるとイライラして来るし時間がもったいない。
彼女のお蔭で、そんな思いをせずに本当に助かった。
その後も彼女の素晴らしいアシストぶりには、何度も助けられた。
どうやら私は通訳に恵まれているようだ。2匹目のドジョウがアメリカにいた。

 後日、会長とパティから「今後もアメリカの各地でセミナーをしてくれないか」と誘われた時、

「私は健康状態も安定していないし、私よりも素晴らしい技術を持ったサンドラやアティラ、リンダやダイアンと
世界には沢山の優秀なトレーナーがいるので、技術的な指導なら私がわざわざ欧米にまで出向く必要はない。
今回は私たちが欧米に近づく為に、何を大切にしてきたかを話しに来ただけだ。
それに今回の通訳は、私の話した事を1日で全て暗記したようだ。私のセミナーは彼女にだって出来る」

 3匹目のドジョウがいたら、話しに乗っても良いかな・・と思いながら答えた。

(3)へ・・続く