WCFO セミナー レポート(3)
WCFO 5th International Conference in Colorado

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ワークショップ編 (2)


 
 第一ラウンド開始

 午前7時半、トレーナーミーティングが行われ、ワークショップの進行についての最終打ち合わせをする。
1分たりとも無駄にしないように、タイマーが開始と終了の5分前に合図を送るので、
時間を厳守して欲しいとのお達しがある。
たとえ受講者が揃っていなくとも、進行するようにと駄目押しまで・・。
受講者を確認する必要がないので、私にとっては非常に有り難いルールだ。
1グループに1時間半が持ち時間。
「要するに、1分たりとも無駄にせずに働けって言う事ですね、ハイわかりました」

 午前中の2グループは「初心者クラス」と「初心者・中級者」の混成クラス。

 さあ〜、いよいよ!   受講者が集り始める。
みんなニコニコしていて、期待しているのが良く解かる。
パートナーである通訳の坂倉さんを紹介し、通訳を通してのセミナーは時間も半滅するし、
専門的な言葉はニュアンスの違いなども生じるであろうから,その都度質問などを通じての臨機応変な協力も依頼する。

「競技の間、トレーニングの間、どうすれば集中力が持続できるか?
難しいトリックなどを、どうすればうまく教える事が出来るか?
おそらく皆さんが私に求めているのは、この2点に尽きるだろう。
・・と言うより誰にとっても、この問題はトレーニングをするにあたって、大きな課題で永遠の課題だから。
その為に有能なトレーナーが、我々に色々なトレーニング技術を開発し残してくれている。
その事は皆さんも良くご存知の筈だ。
「もし知らない人がいたら、今すぐに10ドル持って本屋へ走ったほうが良い」

 始めの挨拶をした後に、この辺りまで話したところで、みんな大きく頷きながらも、なごやかな雰囲気になってきた。

 「フィジカルプロンプトで教える人、クリッカートレーニングを主体にしている人、ネガティブな手法も取り入れている人、
人それぞれに色んな方法でトレーニングをしているでしょうが、新しい技術を教わる事により、
今までのトレーニングスタイルを一変しなければいけないのであれば、それは前進した事にはならないでしょう。」

 「考えを新たにする事とは、古い考えを捨てる事ではありません。むしろ今までの考え方を生かす事だと思います。」
「その通り」といわんばかりに、受講者がうなずく。


 「今回の私の提案のほとんどは、本格的トレーニング以前の非常にベイシックなトレーニングです。
その一部でも皆さんのトレーニングの中に取り入れて頂き、今行っているトレーニングがより効果的に
行われる事を願ってセミナーを進行していきたいと思っています。」
小さく歓迎の拍手が起きる・・・滑り出しは順調♪♪

「本当にベイシックな提案なので、簡単に説明してしまうと、私は30分でアメリカを去らなければなりません。」
通訳の説明にドッと笑いが起きた。

一息入れて、・・・

「ただし、この非常にベイシックで簡単な方法を、本当に理解して頂こうと
するなら、1週間あっても足りないくらいです。
だから、途中で解からない事があれば、どんどん質問するように・・」と、
念を押しながら話を進める。
積極的に質問はあるが、ほとんどが想定内の質問なので答えに詰まる事はない。
説明しにくい所や大事な部分は、受講者の犬を借りて実演をしながら
理解して頂く事も試みる。
受講者も、体の動きや手の動きの細部にわたって、その意味を質問したり
真似たりと非常に熱心になってきた。

「本当だ!・・私の犬にも出来るのね」 お借りした犬のオーナーが嬉しそうに叫ぶ。
終始和やかで、時折爆笑も起きる。
他のブースの受講者が、一斉に我々のブースに視線を注ぐ場面などもあり、
順調の内に無事第一ラウンドが終了した。

 僅かな休憩時間なのに、受講者の何人かが話しかけてきた。
「今日参加して本当に良かった、明日が楽しみだわ。」
「私のやってた事って、結構ネガティブだったのね。」
「手首の動きは、こんなんでよかったかしら。もう一度やって見せて・・」

 トイレに行きたいのを我慢しながら笑顔で応対する。
これも国際親善、無視されるよりずっといいかも・・。
通訳を通しての話は、反応が遅くて話しづらい。
犬もベイシックな話に、あくびをしながら眠たそう・・
それならと、眠そうにしていた受講者の
ワンコを借りて実演も・・。
 一息入れて次の受講者を待つ。
休憩を終えた通訳の坂倉さんもブースに戻ってきた。
「休憩中の受講者の話からすると、非常に好評のようですよ。次もこの調子で頑張りましょう。」
と言って、励ましてくれた。



 午後の部とネガティブ・トレーニング

 WCFOの多くの会員はポジティブトレーニング派だし、創設者パティーは、ネガティブトレーニング絶対反対論者だ。
その嫌悪ぶりは極端だと聞く。
それについての逸話も色々あるし、今回の旅でもそれらしき事を見聞きしたが、その事はいつの日か・・。

 世界中を飛び回っている英国のA氏も、「WCFOでは、ネガティブな事は絶対にタブーだから、
気を付けるように・・」とメールで警告してきた事がある。
・・と、書けば、アメリカ人やWCFOに限らず、「俺だって嫌いだよ・・、私だって・・」との
声が聞こえてきそうだが、誰も好き好んでネガティブなトレーニングをする人はいないと思う。

 パティーが私をポジティブトレーナーとして、招聘した事は言うまでもない。
しかし、雑記帖の「両端」にも記したが、物事には必ず両端がある。
片方だけに偏っていてはバランスが取れない。

 もしバランスの取れたポジティブトレーニングが出来ていると言うのなら、
必ずどこかにバランス良くネガティブなトレーニングを取り入れているはずだ。
世の中に「私は絶対にポジティブだけで、ネガティブトレーニングはしていない。」と言う方がいたら、
それは大嘘つきか、動物の学習理論を知らない方だ。
今回はその事を知らせる事も、目的のひとつだったので、ある事を企んでみた

 午後の部には中級者・上級者クラスがあり、その中にパティーも受講者として参加する。
到着した日「あなたのセミナーを受ける事が、今回の最大の楽しみなのよ。」と言って、最大の歓迎をしてくれた。

 いよいよ上級者向けのセミナーの開始だ。
その多くが、それぞれの国やアメリカ各地で、生徒さんを持つトレーナーがほとんどで、中には動物心理学者の
ドクターの肩書きを持つ人などもいる。理解度も高そう。
表紙 裏表紙の筆者と愛犬
参加者から記念に頂いた詩集。

 日本にも2年ほど滞在していたと言う、親日家のトム氏
愛犬との暮らしを中心にまとめた詩集のようだが、
未だに読めていない。

ごめんなさいトム、
その内に少しずつ読みます。

            

 ショック療法?

 午前中も繰り返し喋ったお決まりの始めの挨拶をした後、いよいよ作戦開始

「私は今までに、オビディエンスをはじめ、アジリティーやIPOなど色々なトレーニングを体験してきました。
その中で多くのトレーニング法を経験してきました。もちろんポジティブトレーニングや
ネガティブトレーニング等の色々な手法も・・」

「私は皆さんがポジティブトレーニングを愛する人達だと言う事を良く知っています。
そして私も、自分自身をポジティブトレーナーだと思っています。」
愛犬の頭を撫ぜながら、笑顔で聞き入っていたパティの顔がますますほころんでくる。

「いいぞ、いいぞアンディその調子。遠い日本から呼び寄せた甲斐があったわ。
ネガティブは駄目よ、そう、ポジティブよ、ポジティブ・・」」と言わんばかり・・。
まるで孝行息子を自慢する母親のような満足げな笑顔。

「さあ〜、次はどんな話をしてくれるの、待ちきれないわ。」
通訳の時間を利用しながら、それとなく観察を続けるが、まるでパティの心の声が聞こえてきそうだ。
作戦は予想以上に順調だ。

 そして・・続ける。
「このグループは、上級者で構成されているグループだが、今日私が提案するトレーニングは
眠たくなるような非常にベイシックなトレーニングです。」

「しかも、そのほとんどがネガティブトレーニングで構成されたものです。

 通訳を通さずとも、私が喋った事を先に理解できている同伴の生徒さん達が、
今からおきるであろうパティーの豹変振りを予測するのは簡単だった。
気付かれぬようにパティの顔を覗き込む。
そして、パティの予想以上のオーバーな反応に、私同様こみ上げる笑いを押さえるのに必死。
いつも陽気なWCFO創始者パティとアンナ会長

「ナッ・・・なッ・・・なんてこと言うのアンディ・・気でも狂ったの・・」
心の中で叫んでいるに違いない。

 パティの顔から笑顔が消え、顔はこわばり、目は大きく見開いたまま・・。
膠着した体は後ろに大きくのけぞり、今にも椅子から転げ落ちそう。
そしてその状態はしばらく続いた。

 その他の受講者の中にも、ビックリしたような顔をする者もいて、作戦大成功!
ネガティブな話をしようものなら、間髪いれずに反論を開始すると聞いていたパティーは
もはやその余力もないくらい落ち込んでいる。
開始のゴングが鳴り止まぬうちに先制パンチを喰らったボクサー、まるで、ダウン寸前。
想定以上の落ち込みぶりに、早く呪縛を解いてあげなければと、焦るほど・・。

「しまったぁ〜、カメラを用意しておくべきだった。」
今回の旅の忘れられない最高の名場面を、収めそこなった生徒さん達は悔しがる事しきり。

 帰国後の今も、その話題になると、腹を抱えて大笑いをしている。

(記憶のメカニズム・その1)ショックと共に入ってきた情報は、心に深く刻まれる。


 動物愛護が強く叫ばれる今日、「ネガティブトレーニングです。」と宣言してセミナーを行うなど、
アメリカのみならず、世界中のトレーニング界ではタブーに等しい。
そんな中、堂々とそれを宣言してセミナーを実行できた事、そしてそれが何を意味するかを理解していただき、
パティの膠着した体を元に戻してあげる事が出来た事は、私にとって心地よい達成感でもあった。

 もちろん今回のこの試みは、パティーを懲らしめる為に仕組んだ事ではない。
ネガティブなトレーニングを嫌うパティーの気持ちは良く理解できるし、大切な事だと思っている。
むしろ、わたしよりも純粋なのかもしれない。

 ただ最近では、ポジティブとネガティブの区別のつかないトレーナーが、あまりにも氾濫しているような気がする。
特にポジティブトレーニング崇拝者?にそれを多く見る。
ポジティブかネガティブかは、我々が決める事ではなく、犬が決める事だと言う事が解っていない。
その問題を少しだけ提起したかっただけだ。

 「おおぅ・・何だか余裕が出てきたぞ、このクラスもうまくいきそう。」


 これを見て下さっている方には、何の話か理解出来ないだろうが、説明には長い時間を必要とするので割愛します。

他のブースの講師達、リンダ(英) サンドラ(米) キャサンドラ(カナダ) ダイアン(米) ヴィース(オランダ)



 カンファレンス恒例のFuzzy Feet Banquet

 夜は恒例のFuzzy Feet Banquet パーティだ。
ワークショップ参加者と関係者が相集い、スリッパを履くような気軽な気持で交流を深めましょう・・と言う
パーティーで、実際に工夫を凝らしたスリッパを履いた参加者も多く、パーティーの途中で、そのスリッパ姿の審査会も催された。

 会長の挨拶で始まったパーティーの最初の登場者は、WCFO創設当初から活躍している方で、
その愛犬(MIX)は20歳の高齢になった今も??に活躍しているというペアーの表彰だった。
この企画は極秘にされていたようで、受賞者は突然のコールに戸惑いながら壇上へ・・。
??の詳しい事は分からなかったが、プレゼンターの会長にハグされながら、受賞者のオーナーは涙を流して喜んでいる。
「えぇッ、20歳??、現役??・・」とにかく目出度い事と、盛大な拍手を送った。

 次にWCFOの創設とFSの普及に多大な貢献をし、先ごろ癌と高齢のため他界した、
サンドラ・デービスの愛犬ペッパーの追悼式が行われた。
会場には大型テレビが用意され、在りし日のペッパーの雄姿が映し出される。
壇上に招かれたサンドラには、全国の会員から寄せられた思い出深い写真満載のアルバム集が手渡される。
会場からの拍手と会員から寄せられた哀悼の心に、凛として他を圧倒するような、いつものサンドラの姿はない。
何かを喋ろうとするが言葉もなく、両手をわずかに広げ感謝の意を表すのが精一杯と言った表情。

 2年前のアシュビルでのデモが、文字通りこのペアーのラストダンスになってしまった。
その時の映像がスクールにも残っているが、とても70歳を過ぎた女性と12歳の犬とは思えぬほどエネルギッシュな演技だ。
ビデオで拝見した全てのルーティンは、正確で嬉々としたヒールワークで満たされていて、
生徒さん達には目標にして頂いてただけに、直接拝見する事が出来なくなった事は非常に残念だ。

 その後も色々な催しが続いたが、何事かを理解できない私は、適当に(ごめんなさい)拍手を送りながら口を動かした。

功労賞を頂き記念撮影
 しばらくすると、会長とホスト会員が壇上で何やら準備を始めた、
次々に名前が呼ばれ、私も呼ばれて壇上へ・・。

 どうやら、今回のジャッジと講師に対して功労賞が贈られるようだ。
頂いた包みを手に記念撮影が終わると、みんな包みを開け始める。
「Thank You ・・・・」の言葉が添えられた箱の中身は、女性がネックレス、
私にはシルバーの台にインディアンジュエリーがはめ込まれたボロータイだった。

 早速感謝の気持ちを込めて身に付ける。

「よく似合ってるわよ、アンディ」  どこからか声がかかる。

英語は解らないが、おそらくそんなところだろう。笑顔で答える。

「どーれアンディ、後ろを向いて俺たちにも見せてよ。」
後ろから珍しく男の声がする。

 レディーファーストのアメリカで、しかも圧倒的に
女性ファンシャーが多いWCFOの世界。
陽気に騒ぎまわる女性陣の陰で、いつも静かに笑顔で仕える?男性陣。
男の声などあまり聞かなかった何日間。
 ついうれしくなり、若い頃やってたガンさばきのパフォーマンスをした後、声のした方にくるっと振り向き、
指ピストルでポーズをとるとこれが大受け。

この何日かは言葉の問題もあり、多くを語らず、シャイを印象付けていた私の変貌振りに対してだろう。
 小ネタ

 そうそう、こんな事もあった。
パーティーが始まって間もなくの事、リンダがポケットから犬用の小さなリスの
オモチャを取り出し、プレゼントと言って差し出した。
イギリスからわざわざ持ってきたのだろう。
つまむとお腹に仕組まれた笛が鳴る、例の縫ぐるみのようなオモチャだ。

 ただ「サンキュー」とだけ言って頂くのでは芸がないので、
頂いたリスちゃんで早速パフォーマンス。
日本人なら誰でも知ってる、ラッキー君もどきの芸を少しだけ・・。
これが意外に大うけで、近くにいた人からアンコールが出るほど。

 慌ててビデオを持ってきたオランダのヴィースが、カメラの前で
もう一度やれと催促をする。
手の平にすっぽりと入る小さなオモチャでは、ネタに限界があるが、
仕方なく(と言っても、少しだけ調子に乗って)カメラの前で瞬間芸。

 次の日、パソコンに取り込んだその映像を見せながら、彼女が言った。
「この映像は、すでにYou Tubeを使って世界中に配信されてるのよ」

「えぇっ、はやー、それにしても俺のYou Tubeデビューは、こんな小ネタかよ」
小ネタが受けた、ラッキー君もどきの犬のオモチャ
 チャリティーくじ

 Fuzzy Feet Banquet恒例の、チャリティーくじの抽選会の時が来た。
壇上に設置されたテーブルには、色んなスポンサーから寄せられた、大物小物の商品がズラリ。
あらかじめ会期中に売り出されていたチャリティーくじの売上金は、ジュニアの養成や、
新規の支部の援助金などに、運用されたりするらしい。

 私たちも10枚のくじをそれぞれが買っていた。
当たった人から順に、どれでも選んで良いと言う設定だから早く当てなきゃ目当ての物がなくなる。
当たったときの事を考えて、品定めに行く人もいる。

 抽選が始まると奇妙な現象が現れ始めた。
何度も当たる運の強い人が現れる。我等が川崎さんもその一人。
おまけに沢山のテーブルの中から、運の強い人のテーブルでは、その運が乗り移ったように
他の者にも次々と、しかも二つのテーブルから交互に当選者が出始めた。
当然のようにオケラのテーブルや、くじの束を握り締めたまま一度も席を立てない人もいる。
陽気なジュリー
 沢山用意されている商品とはいえ、全員に当たるほど豊富ではない。
陽気なジュリーもその一人、その顔は曇ったまま、なにやら叫んでいる。
立ち上がりテーブルを離れると、賞品を選んでいる当選者の幸運の椅子を横取りし、
ちゃっかり座り込んだ。
「もう、彼女の運は私のものよ」・・会場は大爆笑。

 プレゼンターが名前を呼ぶ「ミ・チ・エ・カ・ワ・サ・キ」
慌てて立ち上がり、今度は我々のテーブルめがけ猛突進、そして川崎さんの椅子を横取りする。
その仕草が何ともかわいらしい。二つのテーブルを全力疾走で何度往復した事か。

 今度は彼女が去ると、そのテーブルに必ず当たると言う奇妙な現象に、
プレゼンターも首をかしげながら、箱の中の残ったくじを、
何度もかき回すが、その現象は変わらない。
たまりかねた川崎さんが「今度私に当たったら、選ぶ権利をあなたに譲るわ」と慰める。
すると、本当に当たってしまった。
高く上げた手の抽選券を、もぎ取るように手にすると嬉しそうに一目散に壇上のテーブルに走る。

 いよいよ残りも2,3個、プレゼンターの公然?のイカサマ抽選で、やっと彼女の名前が呼ばれた。
自らの賞品を手にした彼女は「ありがとう、貴女のお蔭でやっと私にも女神がやってきたわ。」と言いながら、
やっと手にした賞品を川崎さんのテーブルに置き、爆笑と拍手の中、ようやく自分のテーブルに帰る事が出来た。

 しばらく続いた、大爆笑抽選会、非常に楽しかった。
このまま終らせるのはもったいない。
そこで我々は一案を計画し、通訳を通して会長にその一案を申し出た。


 大ネタ

 今回のFuzzy Feet Banquetの為に、安田と佐藤の両名は日本から浴衣を用意して来た。
パーティーでも浴衣は好評で、みんなの注目の的、記念撮影希望者も殺到。
落ち着きを取り戻した会場に、会長から我々の計画が発表された。

 「皆さんお静かに!今チームアンディから素晴らしい提案がありました。ミス・ユキコ、ミスターアンディ、壇上へどうぞ!」
会長の突然の呼びかけに、会場は何事が始まるのかと静まり返る。

 「今から2年間の間にジャパニーズルーティンでプロスターにチャレンジしてくれると約束して下さる方がいれば、
なんと彼女がいま身に付けている“キモノ”一式をプレゼントすると言うユキコからの提案です。」
会場はにわかに騒然としてきた。
すでに手を高々と上げチャレンジを宣言する者、「私は駄目だわ・・」と落胆するもの。

 アンナ会長は続ける。
「静粛に!静粛に!・・・。そこで私達も彼女等にひとつの提案をしました。そして快く承諾していただきました。」

 「出来るだけ多くの方にチャンスを与える意味で、条件をプロスターからノービスクラス以上に訂正させて頂きます。」

 会場は前にもまして騒然となる。
「ただし、但しです。2年間のうちにルーティンが発表できなかった時は、WCFOで商品は没収する事とします。」
ドッと笑いが起き、騒然とした中質問が飛ぶ。
「どこのコンペティションでも良いのか?」・・・「もちろん」
「その手提げバッグもシューズもか?」・・・・「もちろん」。  そのたびに拍手が起きる。

 蚊帳の外の男性陣はその様子をうらやましげに見つめる。
壇上で手持ち無沙汰の私は、その様子を見ながらそわそわとした仕草で壇上を左右に2,3度歩いた後、、
「今すぐここではやれないよ。それに中身は駄目だよ。」と言うと、大爆笑と共に男性陣からブーイングが起きる。
最初は5,6人を予想していたチャレンジャーは、何故か男性も含むほとんど全員が参加する事になった。

 ここだけの話だが、
「あの人に当たったら、まずブートキャンプに1年は通わなきゃ」と言うような巨漢女性。
「オイ、オイ・・あなた大丈夫なの?2年間だよ、ノービスクラスだよ。ビギナークラスを抜け出さなきゃならないんだよ」と
言いたいような超初心者のおばちゃん。
「えッ!あなたもチャレンジするの?」パティも自ら用意した抽選カードに名前を書き、祈るように箱へと投入する。
結局一人を除く全員の落胆の声と共に、高々と両手を上げガッツポーズをしたのは、
チャリティーくじでも沢山の商品をゲットしていた、陽気なダルメおばちゃんだった。

 「ちょっと、心配だね。あのハイパーダルメとおばちゃんコンビ。ジャパニーズルーティンを
どのように表現するつもりなのだろうね。」
私たちの心配をよそに、
「2年よね、2年間よね。」自信ありげに、みんなの羨望の声と拍手に包まれながら、幸せそうに目録を受け取った。

 心配なのは着付け。
明日のワークショップが全て終わったあとで、着付け教室付きで手渡す事になった。

セミナーが終わった会場で着付け教室

本当に大丈夫?ハイパーダルメのおばちゃん・・
(おまけ)着物を着て喜ぶサンドラ


(最終編)へ・・続く