WCFO セミナー レポート(4)
WCFO 5th International Conference in Colorado

(1)へ (2)へ (3)へ 同行者番外編へ
ワークショップ最終日


 いよいよ最終日
  午前中

 1日を経験した事と、何事もなく無事に終わった事で、今日は朝から若干の余裕が出て来た。
2日目は、リンクの使い方というより、リンクと時間の経過に慣れるための練習方法。
昨日が犬の為のハビチュエーションなら、今日はハンドラーの為のハビチュエーション・トレーニングだ。
プロジェクターに収録しておいた図や、サンプルビデオを見せながら説明をする。

 練習で一番大事な事は、最低でも2分から3分をハッピーな気持で犬と共に動き終える事だと力説する。

「もちろん何のトリックも要らない、脚側で歩くだけでも結構だ。」

「新しいトリックが完成し、余裕が出来たら、約束事のように図に示したような位置に配置して実行して見たら・・」

「もしきれいにサイドチェンジが出来るようになったなら、これもまた図を参考にして見たら・・」

「もっと、もっと、余裕が出来たその時は、リンクの広がりや時間の感覚もキット貴方の物になっているはず・・」

 脚側行進だけで構成されたパフォーマンスビデオを見せながら、
歩くだけでも充分に観客の心を捉える事が出来る事を示すと、
受講者からも感嘆の声が漏れ、終ると同時に拍手が起きた。

 この部分はオランダでも受講者の関心が高かったが、アメリカでも同じような反応だ。
スクールでは初心者の為のプログラムとして行っているので予想外とも言える。

 受講者がいないはずの空間からも拍手が聞こえる。
5つのブースで行われているワークショップは、必ず講師の一人だけに1時間半の長い休憩が入る。
休憩を利用して私のセミナーを遠目に見学していたダイアン・コワルスキーがニコニコしながら立っていた。

 他にもヒールワークを中心に、比較的なじみ深い簡単なトリックで構成された作品を見せたりしながら、
犬と共に楽しく動くという、FSの原点を忘れないで欲しいとお願いした。

 終了と同時に、パフォーマンスビデオの購入を希望する受講者があらわれ、
その後のグループからも、同じような希望が殺到した。

 「えっ、本もビデオも出してないの?残念・・」
今回のセミナーも含め、ビデオや本を作って発表すべきだと言う受講者の声に、
「帰ったら早速作りましょう。いよいよ、印税生活ですよ、先生♪♪」
同行の生徒さんからは、冗談とも本気とも取れぬ「あま〜〜い」発言も飛び出す始末。

 どうやら2日目の前半も無事に終了。
あとは上級者クラスを、どのようにまとめるかだ。

   
 休憩時間と
  リンダ・トプリス


 以前も出てきたが、今回もあとで登場することになる英国のリンダ・トプリスについて、少しばかりの感想を書いておこう。

 私がFSを教え始めた頃、参考の為に手に入れたビデオでは、すでにトップフリースタイラーとして登場していたが、
素晴らしいフリースタイラーが沢山いる英国では「いつも上位に食い込んできてるな。」位で、そう目立った存在ではなかった。
その後も彼女の演技が収録されたビデオを見るうちに、私は、彼女にどんどん魅力を感じるようになっていく。
魅かれた理由のひとつは「こんな犬を、よくここまで教えているな。」だ。

 競技に参加する者、特に上位を狙うものにとって、良い結果を得ようとすれば、より素質に恵まれた犬種、
そして1頭の素材を丹念に仕上げて行くのが普通だが、彼女は違う。
毎回と言ってよいほどパートナーが変わる。
それも、普通なら敬遠されがちな犬ばかり。
いかにも鈍そうな長毛のシェパードやロットワイラー等など・・。

 そんな彼女が、1冊のアルバムを「これが私の家族だ。」と言って差し出した。
アルバムには「いったい何頭いるの?」と問い返すくらいのたくさんの犬達の写真が貼ってある。
リンダは「急に聞かれても分からない。」といった表情で両手を広げ肩をすぼめる。
個人の所有としては、すごい数の犬達だ。

 庭先で何頭もの犬たちが戯れ遊ぶ写真は、まるでシェルターの一区画といった感じ。
何故なら写真で見る限り、大小様々なこの犬達は、どの犬も良血とは言い難い普通の子ばかり。
これはボーダーだなと思われる子もいるが、多くは犬種すら判別出来ない。
彼女はこの犬達で楽しんでるんだと思うと、なんだか彼女のポリシーの一部を見るような気がした。

 ワークショップの休憩時間に、20分ほどの短い時間ではあったが、彼女のブースを見学することが出来た。
オビディエンスでは、私の倍以上もあろうかと言う巨漢(ごめんなさい)からは、想像も出来ない位、
軽やかでリズミカルな動き、冷静で的確な犬への反応を見た。
クリッカーは、シングルとダブルクリックを使い分けているようだが、私に比べかなり頻繁に使用する。
彼女(優れたトレーナー)ゆえの使用法だろうが、そうでない方が真似をすると、
クリッカーの効果が薄れるのでは?と、要らぬ心配をしてしまう。

 受講者は上級クラス、おそらく顔見知りも多くいるに違いない。
合計3時間の短い時間では、教え足りなかった私に比べ、何度もアメリカを経験している彼女は、
「あとは何が知りたいの?」と言わんばかりに、時間を持て余している様に見えた。
「以前もおなじ事喋ったけど、やってきてないじゃん・・」と言いたそう。

 急遽、Q&Aスタイルに切り替え、プライベートレッスン的な事を始める。
個人的な質問が出ると、その方の犬を使用しながら説明をする。
この時とばかりに、トイレに立つ奴がいる。(汚い言葉でごめんなさい)

「だから、駄目なんだよ。」私は心の中でつぶやきながら、その後姿を追う。

「いつでも教える準備は出来ている。教わる準備は出来ていますか?」

スクールで、いつも生徒さんたちに言っている言葉を思い出す。



 
 午後の部
  上級者への提案(頼るな論)


 午後からの上級者向けも、基本的な内容に大きな違いはないが、毎回同じ事を喋っているわけでもない。
上級者クラスになれば、プロのトレーナーもいるし、少なくとも指導者的な方ばかりのはずだ。
技術的な指導の中に、道具を利用した方法等も取り入れている筈。
そこで、スクールで利用している道具などを紹介した後、間違いの起きやすい考え方を指摘してみた。

 簡単に言えば、「道具は多いに利用しましょう。ただし利用はしても頼るな。」
私自身、指導していても、この考え方を植え付けるのは容易ではない。
大雑把に道具と言う言葉で表現したが、その中にはハンドシグナルも、ボディーシグナルも含まれる。
その対策の為に、前日話した内容が重要になる事を、例を挙げ説明した。

 そのひとつに、「どの国の人も同じだな。」と思えるような、リードに対する考え方がある。
リードは重要な道具の一つだが、なぜなら、それは手の延長をしめす物であり、「手」そのものだからだ。
手であれば当然のように、温かい優しさや、厳しさ、時には頼りがいのある逞しさをも伝えなければならない。

 何よりも「私の手は短いからリードを利用してるんだよ。だからこれは手なんだよ、
でも、この手(リード)にだって限界があるだろ。」と言う事を教えきっていない方が多い。
・・と言うより、その考え方がなさすぎる。

 2日間に渡って見学をさせて頂いた競技でも、出番を待つ廊下で、控え室で、終わった後で、
多くのコンペティターの中に、リードの使い方について気になる方がたくさんいた。
もちろん、リードの意識の素晴らしい方もいた。
結果は目に見えている。
前者は、日頃の成果の半分も出せないままに終わったはずである。

リードを付けている限り自由ではない。自由にさせたいなら放せ!」

「愛する子供と手をつないでいると思えばよい、保護責任を忘れるな!」

「子供の手を握り締めたまま、自分だけ休むな。子供も休ませろ!」

「少なくともリードには、端っこがある事ぐらいは教えろ!」

「他のグループには言わなかったし、セミナーの予定にも入っていなかったのだが、参加者の方々を見て、
どうしても気になった事があるので言わせて頂きたい。あなた達の多くは少なくとも指導者だから・・・。」

・・と言って、始めた「頼るな論」は、若干のネガティブな要素も含んだ話になったので
途中で過激すぎるかなと思ったが、今さら止められない。

 一人一人の顔を順に目で追いながら、反応を探りながら話す。
今回の賞を独占したミシェルと目が合った。
大きく開いた足に両肘を乗せ、まるで男のような前のめりの姿勢で聞いていた彼女が、
周りの人に気づかれないように、ニヤリとした笑顔を送ってきた。
足の間で軽く組んだ手の親指を立て、しきりにアピールしている。

 それは「いい事言ってくれる。私も同感だよ。」と言ってるように見えた。

「もっと言おうかな、この辺でやめようかな・・」図りかねていた私は、
無意識の内に彼女の方を向いていた。
すると、またもや親指を立て、その上今度は手の平を上に向け、しきりに煽っている。
「もっと言え。もっともっと言ってくれ」とでも言うように・・。

 35年のキャリアを持つトレーナー、しかも彼女が独自に開発したと言うトレーニング理論は
多くの盲導犬アカデミーに支持され、世界各地を飛び回っていると聞く。
そんな彼女も、私と同じ考えを持っていたのだと思うと、彼女に支持されただけで充分と、
この話の収束を図った。

 あとで彼女からは「私のトレーニングには無い幾つかの興味深い話を聞いた。
自分のトレーニングに取り入れる事を楽しみにしている。」とうれしい言葉を頂いた。

 今回の非常に初歩的な話が、どれほど受講者に理解して頂けたか解からないが、
自分としては、合わせて3時間と言う通訳を通しての短い時間の中で、
精一杯中身の濃いセミナーを終えたつもりだ。
2日間に亘って、お付き合い頂いた受講者にお礼の挨拶をし、
今後のトレーニングの成功を祈って全てが終了した。

又いつか、同じリンクで・・
(右) ミシェル


 ステーキハウス

 明日早朝にはとんぼ返りと言う強行スケジュールの我々にとって、今夜は最後の夜。
最後の夜はみんなでお別れ食事会をしようという事になった。
「ただし、今日はアメリカン・スタイルだよ。」
入り口で出迎えてくれるムースの剥製
 車に分乗し20分位走って「Texas Road House」というステーキハウスに到着した。
日本で言えば郊外レストランみたいなところだろう。
入り口で大きなムースの剥製が出迎えてくれる。
店の中は結構賑わっているようだ。

多人数なので席が決まる間、少しだけ休憩室で待つ。

 休憩室にはピーナッツが山盛りにされた大きなワイン樽が置いてある。
好きなだけ食べながら、ゆっくりお待ち下さいと言う事らしい。
床はお客の食べたピーナッツの殻が散乱していて、歩くたびにギシギシ音を立てる。
2,3個食べてみたが、殻つきなのに軽い塩味が効いて、これが中々うまい。
大げさだが、こちらに来て日本の物より美味しい物を初めて食べた。
ただし、あとの食事の事を考えて控える事にしたが、
「しまった!バッグに詰めて持って帰ればよかった。」
何も食べるものがないホテルで後悔する。

 席が確保出来たというので、店内に入るとショーケースがあり、
様々なステーキサンプルが並べられている。
みんな分厚い、でかい・・、体に見合った一番小さなポンドを確かめ、ピーナッツの殻を踏みつけながら席へと移動する。
「おいしい物を腹いっぱい食べたい」と思っていた若い頃を考えると、力の衰えをこんな所でも感じてしまう。

 それにしても奴らは良く食う。
隣に座ったアンナのご主人や、ヴィースの息子のでっかい皿には、B4サイズほどもあろうかと言う、
でっかいリブステーキが、まわりの野菜を押しつぶす様に鎮座している。
食べ放題のパンや別注のサラダ、それにポテト、これも半端じゃない。
おまけにデザートまでペロリと平らげ、ドリンクがぶがぶ・・。

 脂っけの無い肉だが食ってみると、やわらかくて結構うまい。
あと1サイズ大き目のを頼んでおけば良かったかなと思っていた所、女性陣の皿に残っている半分の肉を見つけた。
「もったいないから、俺が食べてやる。」
・・・・・今日は大満足。

 最後の夜、最後の食事。
食べ終わると、名残を惜しみながら帰途に着く人たちが出始めた。
再会を誓い合いながら帰る者、見送る者。
ほとんどの講師とジャッジ、それに大会関係者は明日が出発の為見送り組。
テーブルのあちこちで行われ始めた記念撮影会が終ると、来た時同様、何台かの車に分譲しホテルに戻った。

 ホテルに帰ると休む間もなく、帰り支度。
明日はパティーが空港まで送ってくれると申し出てくれた。
ホテルに帰ったら、荷物をまとめて待ってるようにと言われる。
早朝の出発の為、今夜の内に荷物を積み込む為の、シュミレーションをしておくのだと言う。
荷物をまとめて待っているのだが、指定の時間を過ぎても現れない。

 しばらくして、すっかり酔っ払ったパティーが現れた。
派手な格好には不似合いのドギーバッグを両手で抱いて、足元もややおかしい。

「荷物はどれ?あぁそれ? 大きなトランクは1個づつね。それで全部なのね。トモミ達も1個づつかしら?」

「みんな大きさは同じよね?じゃー全部で4個ね。」

「他に荷物はたくさんあるのかしら?えっ、あっそう、小さいのだけね。」

「あとはどうするのかしら?」

「そう、持って乗るのね。」

「じゃあー、乗せてみるまでも無いわね。大丈夫、任せといて。明日は6時よ、6時・・、駐車場でね。」

「じゃー、お休み。」・・・ 

「あっ!駐車場分かるかしら、裏の駐車場よ。エレベーター降りて右ね。あら分かってるの、ならいいわ。」

壁に寄りかかって頭をかきむしりながら、一人でしゃべって帰ってしまった。

「おいおい、本当に大丈夫かよ。」

お別れ会の食事のあとは、あちこちで記念撮影
ブリキのバケツ一杯のピーナッツは、誰の胃袋に?
さよなら、コロラド
 お荷物とナビ

 いよいよコロラドを去る時が来た。
早朝の旅立ちと、無事全てが終了した安心感と妙な興奮で昨夜は眠れなかった。
苦手な飛行機の中で、睡魔が襲う事を期待する。

 指定時間に駐車場へ・・。
すぐにパティーも現れた。
ただし、みんなで話していた予想がバッチリ当たった。

 2段になったホテルの荷物運搬用キャリーは、芸能人並の大荷物。
おまけに、あの巨漢のリンダが大きなトランクを引きずりながら後ろから付いて来る。
恐らく我々の荷物だけで一杯だと思っていた車に、自分の荷物の他、リンダの分も???。

 日本なら当然5人乗りの車だから、我々だけかと思っていたのでビックリ!
積み込む前から、結果は分かっている。

「さぁー、あなた達のトランクから積んでみて。」

「そう、そう、縦によ。私のはその上に乗せるから・・」
 我々の荷物を積んだ上に、自分の荷物を積み込もうと試みるが、無理に決まっている。

「よし、いい事分かったわ。、じゃーあなた達のトランク2つを後部座席に乗せましょう。」
「あなた達はその上に座っていくのよ。それがいいわ。」

5人乗りの車に・・
「良くないよ」大型車ならまだしも、彼女の車は普通の4輪駆動車。
でっかいトランクが詰まれた座席に乗れば、窮屈だし頭はつかえる。
「足は何処に置くんだよ。」「俺達お荷物かよ。」
でも仕方が無い、あれこれしてたんじゃ時間が無い。

 「でも、ちょっと待てよ?リンダはどうするんだろう。」
先ほどまで、両手を広げて大笑いしていたリンダの方を見ると、完全に引いてしまっている。
車から10メートル以上も離れた所で、腕組みをしたままニヤニヤ笑って様子を伺っている。

 完全に諦めモード。
・・と言うより、非常に冷静。
もともと、いつも冷静に行動する彼女だが、こんな時でも本領発揮。
しばらくして振り向くと、今度はその様子を、バッグから取り出したカメラで、
他人事のように撮りまくっている。
しかも大笑いしながら。

 アンナ会長も見送りの為に現れ、四苦八苦している我々を笑いながら見ていた。
昨夜酔っ払って部屋を訪れた際のパティーの姿を真似ながら、
昨日の安請け合いのいきさつを、私はパントマイムで伝える。

 肩をすぼめて大笑いしながらアンナが答えた。
「彼女はいつもこうなのよ。いいわ、分かった、心配しないで、リンダは時間に余裕があるから、あとで私が送っていくわ。」
「助かった」・・リンダの事が気がかりだったので一安心。

 そういえば、車で何処かに行く事になると、いつもパティーの車は敬遠されていた。
最初の夜も、最後の夜も。
リンダも、最初の夜の食事会の帰り、「こっちに乗らない」のパティーの誘いに、
ニコニコしながらも慌ててアンナの車に走って入ったよな。
他のみんなも、誘われるまま後を付いていく我々を見ながら、含みのある笑いをしていたな。
「やっと、読めてきたぞ」
「このまま無事に空港まで着いてくれれば良いが・・」

 トランクの上で、体を前のめりにしながら手を振る我々を、アンナもリンダも大笑いしながら見送ってくれた。
リンダは相変わらず、笑いながらカメラのシャッターを押し続けている。
1時間余の空港までのドライブが始まる。あくまでも・・うまくいけばの話だが・・。

 走り始めてすぐに、パティーがダッシュボードの中をかき回しながら何やら探し始める。
ようやく、ひっくり返したバッグの中から1枚のメモを探し出し熱心に見入る。
前方から完全に目を離し、肘掛の上に広げたメモを人差し指でなぞりながら、
必死に何かを確認している。

「あぁー駄目よ、駄目。パティー、前を見て運転しなきゃ駄目よ!危ないよ〜・・」
慌てて女性陣が叫ぶ。

「大丈夫、道は真っ直ぐだから・・」

 今にも両手を離しそうに、広げたままのメモと地図を真剣に確認するパティー。
早朝の車の少ない真っ直ぐな道路とはいえ、車は中央線をフラフラしながら進む。

「危ないよパティー、佐藤さん、ちょっと代わりに読んであげて・・」思わず私も叫ぶ。

 聞けば、パティーも空港までの道順が分からないと言う。
おまけに、メモってくれた人の書いている事が理解出来ないでいるようだ。
メモはまるで手紙のようにびっしりと文字が並んでいる。

「もっと簡素に書け、このヤロー!」

いくら真っ直ぐな道とはいえ・・、
 「彼女はいつもこうなのよ・・」アンナの言った言葉が頭をよぎる。

「また安請け合いかよ。だからシャトルバス呼んでくれといったのに。」
いろんな事があったので、どうもプラス思考になれない。頭の中をマイナス志向がグルグルまわる。

 フロントガラスに付いているカーナビが目についた。
コードレスの小さな充電式カーナビで、タバコ2つ分位の大きさ。
日本では余り見かけないタイプのものだ。

「カーナビがあるんなら使おうよ。」

 ところが「使い方が分からない、誰か設定して」と言う。
「も〜〜〜ぅ、昨日の内にやっとけよー。」いやはや、段取りの悪いおばちゃんだ。

 フロントガラスから取り外し設定を試みるが、またもやイングリッシュが邪魔をする。
画面に現れる説明を見ながら奮闘する事10分余り、どうにか空港を割り出し設定する事が出来た。

 よし!これで一安心、人間よりも頼りになるグローバル・ポジショニング・システム様。
両手を合わせて、拍手二つ「頼んだぞ、カーナビ様」

 パティーに手渡し、フロントガラスに装着しようとした瞬間、そこでゲームオーバー、充電切れ。

「冗談じゃねぇ〜よ、まるで漫画じゃ〜ん」

 もう笑うしかない、予定より結構時間を使っている。不安だけがつのる。
入国審査はないのだから、少し位の予定オーバーはどうにかなるだろうと、自分で慰めるしかない。

 こうなったら、メモしか頼る物がない、頼むぞパティー。
行き過ぎては戻りしながら進むうちに、
「出たわよ、どうやら間違いないようね。ここまできたら安心よ。」
パティーが標識に書かれたルートナンバーを指差しながら笑顔で叫んだ。

しばらくは、車についてくるように見えていた、かすんだロッキー
 やっと回りの景色が目に入るようになった。
「ほら、あれがロッキーで一番高い峰よ」
コロラドに来て、何処にも行かず帰る事になる今回の旅。
パティーが少しばかりの観光案内をする。

 霧が掛かったようにかすんで見えるロッキー山脈。
むかし夢見た、馬でのロッキー山脈横断。

 観光もせずに、すぐに帰ってしまう我々に「もったいない」を
連発していた通訳の坂倉さんが、

「今が一年で最高に素晴らしい」と言ってたロッキーの山なみ。

「ロッキーよ! はじめまして、そしてさようなら。」

空港について1時間後、無事にロスアンジェルス径由→日本行きの人になった。



【完】






 (巻末おまけ)


 「アメリカに来て、アメリカらしい写真を1枚も撮ってなかったね。」と言うと、
 やっと落ち着きを取り戻した車窓から、撮った写真がこの1枚。

 「どこがアメリカだ!」と言うと、

 「タンクを良く見て、AMERICAN PRIDE CO-OP と書いてある。」

 「う〜〜ん、確かに・・」

同行者番外編へ